「The Perfect Bet: How Science and Math Are Taking the Luck Out of Gambling 」の翻訳版「完全無欠の賭け: 科学がギャンブルを征服する」が書店に並んでいたので、さっそく買い求めました。
内容以外には、以下のような点に、気がつきました。
まず、不満を感じた点。

  • 索引がないのは、勿体ない
  • 原注がない(草思社のウェッブサイトからPDFをダウンロードするようになっている)
  • 章題を、原文を翻訳したものではなく、翻訳者(編集者?)が内容を要約した、独自の章題にしている。例を挙げると、第3章の章題は、「ロスアラモスからモンテカルロへ」とでも訳すところが「競馬必勝法と水爆開発」。第8章は「カードカウンティングを超えて」が「ギャンブルの科学の新時代」など。他の章も同様。但し、これは好みが分かれるところだと思う。
次に、感心した点。

  • 章の1つ下のレベルの節ごとに、見出しが付けられている(原著には節の見出しはなかった)
  • 原著目次は章題だけだったが、日本語版目次には節の見出しが含まれていて、内容が把握しやすくなっている
  • 訳者あとがきで、日本の馬券裁判に触れている
日本語目次は下記のとおりです。
これを見て、興味を持たれた方もいるのではないでしょうか?

目次
  • 「ギャンブル必勝法」というものが持つ魅力
  • ギャンブル必勝法の研究が多くの科学を生んだ
  • ノーベル賞物理学者を驚かせたギャンブル必勝法
第1章 ルーレットは本当に予測不能か
  • ルーレットに確実な攻略法はあるか
  • ポアンカレの言う「三次の無知」とは何か
  • ルーレットは本当にランダムかを調べる
  • 予測可能なはずのものが予測不可能なものを生む
  • ルーレットの研究を始めた二人の天才
  • ルーレットの解明は秘密裏に進められた
  • ルーレット攻略のヒントを得た次世代研究者たち
  • 論文として発表されたルーレット攻略法
  • ルーレットを考える理論モデルの進化過程
第2章 宝くじの抜け穴につけ込む
  • 宝くじと実験と「制御されたランダム性」
  • 当たりくじを見つけ出す方法
  • 期待利益がプラスになる宝くじが存在する?
  • 宝くじ攻略の実際とその困難
  • 単純な「シラミ潰し」での宝くじ攻略
第3章 競馬必勝法と水爆開発
  • ブラックジャック必勝法誕生の経緯
  • ブラックジャック必勝法をカジノで実践する
  • 完全にシャッフルするのはじつは難しい
  • 競馬のベッティング市場は完全か
  • 競馬攻略の研究成果を発表した論文
  • 競馬予測モデルの作り方とはどのようなものか
  • 競馬予測研究の理想の地、香港
  • 競馬予測モデルをオッズを使って修正する
  • 香港での成功までの道のリ
  • 水爆を開発した数学者、ウラム
  • モンテカルロ法という解の探究法
  • より強力な、マルコフ連鎖モンテカルロ法の登場
  • 正しく予測できても儲けは賭け方次第
  • 科学的手法が競馬を金儲けの手段にした
第4章スポーツベッティングへの進出
  • 攻略法実践の場としてのオンラインカジノ
  • 試験問題から始まったサッカーの試合結果予測研究
  • サッカーの試合結果予測法の基本原理
  • スポーツベッティングに興味を抱く原子力研究所員
  • スポーツ統計学によるラスヴェガスヘの挑戦
  • 種目によリ予測のしやすさが異なる理由
  • 試合と同時進行で賭けられるブックメーカーの登場
  • 高額ベットを受けられるブックメーカーの秘訣
  • 新しい賭けの形式「ベッティングエクスチェンジ」
  • ベッティングエクスチェンジで「儲けの確定」
  • 科学的ベッティングはなぜ投資先として有望か
  • 科学的ベッティングをさらに改善するには
  • 選手の獲得や評価にも予測モデルが使われる
  • 本気で儲けるなら不人気種目に目をつけろ
第5章 ギャンブル市場をロボットが牛耳る?
  • 裁定取引=アービトラージとは何か
  • 全自動ベッティングで絶対負けない賭けをする
  • 誰にも知られず大口ベットをするためのポット
  • ベッティング市場を欠陥ボットが暴走
  • 金融市場にもあるボット取引の罠
  • ボット同士の相互作用が市場を狂わす
  • ボットたちが形成する生態系で市場は安定するか
  • 市場の生態系は規制で制御可能か
第6章 ゲーム理論でポーカー大会を制覇
  • 人間を打ち負かすポーカーボットの登場
  • 「やめたくてもやめられない」ナッシュ均衡とは何か
  • 「はったり」の重要さをゲーム理論で証明
  • ワールドシリーズオブポーカーのチャンピオン
  • ポーカーの最適戦略を研究し勝利した男
  • 最適戦略を求めるミニマックス問題
  • ゲーム理論の発明と拡張と実践
  • ポーカーボットに内在する意志決定規則の矛盾
  • 矛盾を回避できてもポットは強くなれない
  • ボット自身に戦略を学習させる「後悔最小化」
  • 予測に基づくボットが常勝できない理由
  • 最適戦略の探究とその実践での強さ
  • 複雑なゲームではゲーム理論は通用しない?
  • ゲームする機械の次の進化
第7章 ボットで人間に挑む
  • クイズに答えるコンピューター、ワトソン
  • ポーカーボットとチェスボットの課題の違い
  • チューリングの模倣ゲームと学習するコンピューター
  • 人工知能ポーカーマシンの原点
  • ニューラルネットワークに学習させるということ
  • 勝手に強くなって人間を驚かせるボットたち
  • 相手の弱みにつけ込むか、ゲーム理論に従うか
  • ポーカーでもコンピューターが人間を超えた?・
  • ゲームにおける「心理戦」の正体を探る
  • 人間のふりをしてポーカー・ウェブサイトに挑む
第8章 ギャンブルの科学の新時代
  • ポーカーの勝敗は運任せではないとする判例
  • 予測モデルの構築と因果関係の解明は別モノ
  • モデルが正しいとは限らない理由
  • ギャンブルの科学を教えるMITの講座
  • ギャンブルは科学者と科学を引きつけ続けている
  • 科学がギャンブルの常識と定石を覆した
謝辞
訳者あとがき

についての、今回も続きです。

「ザ・クオンツ」で、登場人物の一人が、オンラインポーカーのヘッジファンドを作ろうと考えたエピソードがありました。結局はあきらめたそうですが。
本書ではオンラインポーカーを自動でプレイするプログラム(bot、ロボット)を作った人のエピソードが出てきます。
運営者側はロボットが使われることを規制しようとします。
実際はかなりのロボットが稼働しているのではないか?と心配させられるような話でした。

マルコフ連鎖モンテカルロ法の歴史とギャンブルへの応用についても書かれています。
前にRのMCMCpackをいじったときに遭遇した「メトロポリス」というのは人の名前だったのかと、本書で知り、自分が不勉強なことを恥じ入った次第です。

以上、駆け足ではありますが、本書で印象が強かったことを、頭に思い浮かぶままに書き連ねました。
本書は読み物としても面白く、さらに、実際に自分でモデルを作りたい人は、本書で紹介された論文を手掛かりに、関連する他の論文を探すことができるでしょう。また、既にこの方面に詳しい人でも、知識の整理に役立つと思います。

なお、著者は数学的モデリングが専門で、大学で教鞭をとっているとのこと。

【著者( Adam Kucharski )ご尊顔】

英国の王立研究所での講演

Googleでの講演

についての記事の続きです。

目次を見ただけだと、何について書かれているかわからないと思います。
主として下記事項について、科学と数学がどのようにして攻略法を見出したかが紹介されています。

  • 競馬
  • ルーレット
  • 宝くじ
  • スポーツベッティング
    • アメリカンフットボール
    • サッカー
    • バスケットボール
    • 野球
  • カードゲーム
    • ブラックジャック
    • ポーカー
  • ボードゲーム
    • チェス
    • バックギャモン
    • チェッカーズ
  • クイズ番組(Jeopardy!)
  • 暗号解読
  • じゃんけん
特に競馬については、香港シンジケートの生い立ちが書かれています。
(香港シンジケートについては、「天才数学者はこう賭ける」にも少し出てきます)

1986年の論文を書いたBoltonとChapmanが結婚していたことはこの本で初めて知りました。
また、競馬のデータをコンピュータで処理させるのにパンチカードを使用していたことも、この本で知りました。論文を読み返すと、競馬新聞のデータを「assemble and code」するのに1レースにつき1時間掛かったということが書かれていました。作業時の光景が目に浮かぶようです。
1980年代前半だと、パーソナルコンピュータはまだ非力だったため、大学の計算センターの大型コンピュータを使ったのではないでしょうか?
ちなみに、ベースとなった離散選択理論の論文がダニエル・マクファデン(2000年のノーベル経済学賞を受賞)によって発表されたのが1974年。
日本でも、1980年代前半は、(パーソナルコンピュータではなく)大学のメインフレーム上でFORTRANのプログラムを動かし、離散選択モデルのパラメータ推定の計算をさせていたという記事を読んだ記憶があります。

ルーレットの攻略については、エドワード・ソープやドイン・ファーマーのエピソードが有名で、本書以外の本で読んだ人も多いと思います。
本書では、さらに、2004年にイギリスのリッツホテルのカジノが攻略されたエピソードが紹介されています。
やりすぎて、警察に通報されたとのこと。やはりカモフラージュは大事です。
現地では有名な事件だったようです。
下記のように、BBCなどの報道機関が記事にしています。


昨年出版されると同時に購入して読んでいたのですが、遅ればせながら記事にすることにしました。
購入を決めたきっかけは、索引を見ると

  • Benter, Bill
  • Bolton, Ruth
  • Chapman, Randall
  • Faemer, Doyne
  • Kelly, John
  • Thop, Edward
という名前が出ていたのと、競馬について書かれているのがわかったからです。
また、著者の職業からして、おかしなことは書かれていないだろうことが期待できたからです。

ギャンブルについて、非常にマニアックな内容です。
競馬以外のギャンブルも取り上げています。

おそらく翻訳が出ないと思っていました。
今年の11月に翻訳が出ると知り、ちょっと驚きました。

アダム・クチャルスキー著 草思社 2017年11月20日出版予定


下記のような本を既に読んでいて、面白いと思った人は、本書も楽しめるのではないでしょうか?


目次

Introduction
Chapter 1: The Three Degrees of Ignorance
Chapter 2: A Brute Force Business
Chapter 3: From Los Alamos to Monte Carlo
Chapter 4: Pundits with PhDs
Chapter 5: Rise of the Robots
Chapter 6: Life Consists of Bluffing
Chapter 7: The Model Opponent
Chapter 8: Beyond Card Counting
Acknowledgments
Notes
Index


内容は、タイトルが説明する通りです。
但し、2012年に書かれた本ですので、その時点までのことしか書かれていないことは、覚えておいた方がいいと思います。

同じ著者の「ザ・クオンツ」の原著がアメリカで出版されたのが、2010年2月。
邦訳はその6ケ月後の2010年8月に発売。

今回の「ウォール街のアルゴリズム戦争」の原著(原題「ダーク・プールズ」)がアメリカで出版されたのが、2012年6月。今回の邦訳が出るまでに3年以上かかっています。
その間に、同種のテーマを扱った本では以下のようなものが出版されています。

  • 「アルゴリズムが世界を支配する」(原著2012年8月、邦訳2013年10月出版)
  • 「フラッシュ・ボーイズ」(原著2014年3月、邦訳2014年10月出版)

今回邦訳の出る「ウォール街のアルゴリズム戦争」については、原著が発売された直後に購入して読んだのですが、当然今はその頃よりも更に競争が激化していると思われます。


「ザ・クオンツ」を読んで面白いと思った人、トレードやギャンブルといった分野の自動化、コンピュータ将棋などに興味がある人は買って損はないでしょう。

原著は読みましたが、いちいち辞書は引きませんでしたし、自分の語学力では勘違いして読解しているところも多いと思っています。
邦訳が出版されるのを随分と長いこと待ちました。「ザ・クオンツ」とは翻訳者も出版社も違いますが、発売日には買って読んでみようと思います。


馬券裁判(その1)

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副題は「馬で1億5000万円儲けた予想法の真実」。
著者は、卍(まんじ)氏。
内容については、予想通りのところもあり、予想を裏切られるところもあり、面白く読めた。

目次
第1章 競馬歴について
  • 競馬との出会い
  • さまざまな馬券本を読みあさる
  • 「コンピ指数」の分析に没頭する
  • 「スピード指数」を使って、あることに気づく
  • 「勝ち馬を予想しない」ことに目覚める
  • 各馬に点数を付ける
  • 競馬ソフト『馬王』との運命的な出会い
第2章 裁判について
  • 家に「マルサ」がやってきた
  • 10億円近い課税と刑事告発
  • 外れ馬券裁判の準備
  • 検察の取り調べ
  • 刑事裁判の初公判まで
  • 刑事裁判の2回目の公判
  • 地方裁判所の判決
  • 高裁そして最高裁へ
  • 行政裁判について
第3章 馬券の買い方について
  • 中央競馬の概要
  • 馬券の種類
  • 一般的な馬券の買い方
  • (1)競馬場での購入
  • (2)場外勝馬投票券発売所
  • (3)電話・インターネット投票
  • 私が利用していたサービス
  • (1)A-PAT(IPAT)
  • (2)『馬王』
  • (3)JRA-VANの『Data-Labo』
  • (4)『JRDB』
  • 『馬王』の機能について
  • (1)馬柱の表示
  • (2)自動メンテナンス
  • (3)当日情報の自動取得
  • (4)推奨買い目の表示
  • (5)自動購人
  • (6)買い目の記録
  • (7)過去データの分析
  • (8)カスタマイズ機能
  • 私の馬券の買い方
  • (1)過去データの分析
  • (2)ユーザ得点の計算式の作成
  • (3)ユーザ抽出条件の作成
  • (4)金額式の作成
  • (5)外部データの取り込み
  • (6)自動購入
  • (7)実際の買い目や収支
  • (8)2005~2000年の収支データ
  • (9)実際の収支の変動
第4章 回収率100%を超えるために'
  • 勝ち馬を予想しない
  • 的中率よりも回収率を重視する
  • 本命馬券か穴馬券か
  • 一般の競馬ファンの心理を逆手に取る
  • 分析することをおこたらない
  • 観察して、仮説を立て、実験をして、考察する
  • 競馬に詳しくなる
  • 絞り込み方式よりも加点方式で
  • ノイズを減らし、予想の精度を高める
  • ファクターの数はできる限り多く
第5章 億超えを目指すために
  • 回又率100%を超えることが大前提
  • 破産しない資金管理
  • 均等払い戻しで収支を安定させる
  • 的り匹数を増やす
  • 大穴狙いから中穴、本命狙いへとシフト
  • 回収率は高いほうが良いというわけではない
  • スランプに耐える
  • 自分でオッズを下げすぎない
  • 実際に購入した買い目を分析する
  • 競馬ソフトの有効性について

予想を裏切られたところは、(卍氏は緻密な統計モデルを作成しているのではないか?)と思っていたところ、そうではなかったことだ。
例えば、
  • ファクターごとに加点する方法でスコアを算出し、買い目の候補馬を選んでいたこと。
  • 2頭以上の馬の組み合わせを当てる馬券を買うときにも、その組み合わせの確率を計算するのではなく、その組み合わせの馬のスコアを加算して、買い目を選んでいたこと。
シンプルではあるが、堅牢なモデルと言えると思う。
膨大な過去データで検証を行い、堅牢なモデルを作り上げたのは、『馬王』というソフトの存在も大きい。トレードシステムの開発でいうところの、バックテストを行うことができたようである。

資金管理については、ケーリー基準に似た考え方をしていると思った。
最大ドローダウンは40パーセントくらいだろうか?
40パーセントのドローダウンには耐えることは精神的なストレスが大きい。
そのドローダウンに耐えたところに、卍氏の勇気を感じた。

一般の投資の本も多く読まれているようなので、それらからも有益なヒントを得たのだろう。

著者は2012年に開催されたWSOP(ワールドシリーズオブポーカー)で、ポット・リミット・オマハ・シックス・ハンデッド部門で優勝した人。

目次
プロローグ
  1. みずから競争に参加する
  2. 強くなれる場に飛び込む
  3. スタートの環境は厳選する
  4. 成長に繋がるのは真剣な時間だけ
  5. 短期間で可能な限りの経験値を積む
  6. 点検して試行錯誤する
  7. 高い集中力を身につける
  8. 強者を観察して真似る
  9. 変化こそ人間の能力だ
  10. 情報からノイズを排除する
  11. 勝ってる時こそやり方を変える
  12. 不完全情報ゲームに「神」はいない
  13. 淡々と「期待値」で動く
  14. 運がきた時に勝ち切るために
  15. 感情にかられれば負ける
  16. 初めてのWSOP
  17. WSOP2012
  18. DAY2、オールイン8連勝!
  19. WSOP2012で日本人初の優勝!
エピローグ

非常に面白く読むことができました。

私が注目したのは、次の2点です。

  • どのようにして木原氏がプロとしてのレベルに達したのか?
  • プロポーカープレイヤーとして、オンラインと実際のカジノでどのようにプレイしているか?

本の前半は、木原氏が、自分の体験から

  1. そろばん
  2. 将棋
  3. 麻雀
  4. バックギャモン
  5. ポーカー
などの習い事やゲームに、いかにして上達したかが書かれており、大いに啓発されました。

特に、木原氏がポーカーで強くなるために、オンラインのポーカーで腕を磨いたことには、私がポーカー事情に詳しくないこともあり、目からウロコが落ちました。インターネットが普及しだした1995年頃にもオンラインカジノはありました。
しかしながら、正直に運営されているか、あまり信頼していなかったので、オンラインポーカーについても関心が薄かったからです。
インターネット利用者が増えたきっかけは、Windows 95の発売だと理解しています。
TCP/IPが付いてきたからです。
「インターネットの死角」(結城史郎 著)という小説が翌年の春に出版され、その中に日本人がオンラインカジノを経営するというエピソードが出ていました。

将棋の羽生善治が七冠に挑んだのが同じ年の1996年。
NHKで放送されたドキュメンタリー番組がありました。その中で最も印象に残っているのが、両者の勉強風景の違いでした。
羽生氏はパソコン画面に将棋盤を表示させ、棋譜を呼び出し、次々と表示画面を変化(前に戻ったり、先に進めたり)させていました。一方、中原氏は実際の将棋盤にコマを並べ、棋譜を見ながら、コマを動かしていたのでした。
(これは、羽生氏の方が中原氏に比べ、10倍速で将棋の勉強をしているのではないか?)と、当時非常な衝撃を持って映像に見入りました。

その後も、羽生氏と梅田望夫氏との対談を読み、「高速道路の先は大渋滞」という言葉を知りました。
すなわち、パソコンやネットを活用することで、時間と費用の面で、はるかに効率的に将棋の習得ができてしまう。その半面、ある一定のレベルに到達した人の数が増え、そこから先の競争が激化しているということ。

「高速道路」については、「運と実力の間」の木原氏の本でも、「4.成長に繋がるのは真剣な時間だけ」の「若い人は強い」や「頭脳ゲームを席巻するネット出身者」という節で
  • オンラインポーカーで腕を磨いた、過去4回のWSOPで優勝した21歳、23歳、23歳、24歳のプレイヤーたち
  • ネット碁で強くなった囲碁の井上裕太本因坊
  • 2011年の大和証券杯ネット将棋・最強戦で優勝した菅井竜也四段(当時)
  • 東風戦で強くなった麻雀の小倉孝プロ
の例が紹介されていました。

また、「大渋滞」については、ポーカーの世界でも真実のようです。
「高速道路とけものみち」などの章で繰り返し指摘されていました。

ハズレ馬券が経費になるか?という点については、今回のサラリーマン氏の他に以下の様な事例があります。

(1)大橋巨泉氏

税務署に対して、ダンボール一杯のハズレ馬券を見せたが、ダメだった、とか。
高橋源一郎著の「平凡王」他で、同じエピソードが紹介されている。

(2)UPRO

刑事告発前に日本での責任者だった英国人社長は出国。
報道では、「課税処分に異議を申し立てている」とあったが、その後の経緯は不明。

(3)ほはてい氏

きちんと、経費として申告するが認められず。
税務署の壁は厚い。
今回の事件が追い風になればいいと思うのですが・・・

課税処分の取消を求めて、ガチンコでやろうとすると、どうなるか?
以下のような場で、言い分をぶつけなくてはいけません。

  1. 税務署に異議申立て
  2. 国税不服審判所に審査請求
  3. 地方裁判所で裁判
  4. 高等裁判所で裁判
  5. 最高裁判所で裁判
1でダメなら2,2でダメなら3、3でダメなら4、4でダメなら5・・・
勝とうと思えば、税理士や弁護士に依頼する必要があるでしょうし、時間と費用とエネルギーがかかります。
また、格好のマスコミネタになるので、プライバシーも犠牲にする覚悟がいるでしょう。

そうしたことを考えると、ほはてい氏のような行動はなかなか取れることではありません。
報道によれば、今回のサラリーマン氏が申告しなかったとのことですが、同情してしまいます。

また、外れ馬券を経費として認めれば、拾った外れ馬券でも経費になるので、マネーロンダリングや脱税がやり放題だという意見もあるようです。
これは論理の飛躍で、さすがに拾った馬券では「その人が買ったことを証明できない」ので、経費扱いにはならないでしょう。
なにしろ、領収書でさえ、反面調査などチェックが入るのですから。

今回の事件でユニークなのは以下の点です。

  • インターネット投票で馬券を購入していたため、記録が残っていたこと
  • 購入金額の合計、払戻金額の合計が被告代理人弁護士から明かされたこと
  • 裁判で証拠を示しての主張なので、極めて信頼性が高いこと
  • 被告となったサラリーマンにしても、とても払いきれないほどの課税がされたため、国税不服審判所に審査請求せざるをえなくなったこと
  • 国税不服審判所でも原処分が取り消されず、裁判になる見込みが大きいこと

(参考リンク)
国税の不服申立制度の概要図


(読売新聞の記事引用)
当たり馬券配当30億円、外れは経費?...裁判

 競馬の馬券配当で得た所得を申告せず、2009年までの3年間に約5億7000万円を脱税したとして、所得税法違反に問われた会社員男性(39)が大阪地裁の公判で無罪を訴えている。

 
 配当を得るための「必要経費」には膨大な外れ馬券の購入額も含めるべきで、当たり馬券だけから算定したのは不当と主張。国税関係者は「競馬の必要経費が法廷で争われるのは例がない」と審理の成り行きを注視している。

 国税当局は、必要経費について「収入の発生に直接要した金額」と定めた同法を根拠に、競馬の場合は当たり馬券の購入額のみと判断。配当額から必要経費を差し引いた所得を「一時所得」とし、一般的には給与以外の所得が年20万円を超えれば確定申告が必要になるという。

 男性の弁護人らによると、男性は07~09年の3年間に計約28億7000万円分の馬券を購入。計約30億1000万円の配当を得ており、利益は約1億4000万円だった。

 大阪国税局は税務調査の結果、配当額から当たり馬券の購入額を差し引いた約29億円を一時所得と認定したとみられ、無申告加算税を含む約6億9000万円を追徴課税し、大阪地検に告発。地検が在宅起訴した。

 今月19日にあった初公判で、検察側は「男性は確定申告が必要と認識していた」と違法性を主張。男性は「多額な所得を得た事実はない」とし、弁護側は「外れ馬券も含めた購入総額こそが必要経費。一生かかっても払えない過大な課税は違法性があり、無効だ」と反論した。

 男性は、課税を不服として大阪国税不服審判所に審査請求している。

        ◇

 男性の弁護人らによると、男性は会社員としての年収が約800万円。04年頃、競馬専用の口座を開設して約100万円を入金し、競馬予想ソフトを使って、過去の戦績などから勝つ確率の高い馬を選ぶ方法を独自に開発した。馬券の購入にはインターネットを利用し、仕事のない土日に全国の中央競馬のほぼ全レースで馬券を買い、配当収支の黒字が続いていた。

 その配当金は自転車操業的に次の購入資金に充てており、口座には週明けに馬券の購入総額と配当総額の差額が入金。このため残高が数十億円単位になることはなかったという。

(2012年11月29日14時45分  読売新聞)

(引用終わり)

映画「冒険者たち」1967年

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フランス映画の「冒険者たち」を最近観る機会があったので、感想を少々。

実は、この映画を5回以上観ていると思います。

初めて観たのは、レティシアの甥の少年と同じくらいの年齢だったとき。
その後、ジョアンナ・シムカスが演じたレティシアと同じくらいの年齢だったときにも観ているし、アラン・ドロンが演じたマヌーと同じくらいの年齢だったときにも観ている。
そして今回、リノ・ヴァンチェラ演じるローランとそう変わらない年齢となって観てしまったわけです(笑)
その時期によって、自分が感情移入する登場人物も微妙に変わっています。

何回も観ているわりには、伏線が張られているのに、それに気が付かなかったことが今回わかりました。
もしかしたら、気になっていたのかもしれませんが、昔はインターネットもなかったので、調べることが困難だったので、そのうち忘れてしまったのかもしれません。

その1
物語の後半、発見した財宝をめぐり、ギャングと争いになります。
これ、実はコンゴ動乱の時に、富豪をジープに乗せ、飛行場まで護衛した傭兵だったんですね。
傭兵くずれのギャングだったのでしょうか?

ギャングのボス(傭兵隊長?)を演じるのはハンス・メーイヤーという役者さん。
ドイツ系の南アフリカ人とのことなので、言葉の訛り、風貌など、役柄にピッタリだったのかもしれません。

その2
1967年の映画なのですが、物語で描かれた時代は1965年~1967年のようです。
物語の前半、日本映画のポスターが登場しますが、それは1965年の「戦場にながれる歌」のポスターだったので。

傭兵くずれのギャングといい、主人公たちのグループに入る元パイロットといい、コンゴ動乱(1960年~1965年)が収束してからも、ずっと現地で網を張っていて、財宝を手に入れる機会を執念深く狙っていたようです。その執念が怖いです。
後述しますが、金額が金額なので、欲望に取り憑かれてしまったのでしょう。

その3
金額的なこと。

  • エッフェル塔の下を飛行機でくぐり抜ける賞金として、2500万フラン。
  • 財宝を発見する前、カジノで賭けたなけなしの金額が350フラン。
  • 財宝が5億フラン。
  • 財宝発見後に、ドロンがカジノで平然と賭けた金額が1000フラン。
これは現在の貨幣価値だと、幾らくらいと考えればいいのでしょうか?

当時はブレトン・ウッズ協定下の固定相場制だったので、交換レートを調べました。

▼ウィキペディア英語版

1ドル=360円
1ドル=4.9371フラン
したがって、4.9371フラン=360円
つまり、1フラン=72.9172996円

上記のそれぞれの金額を円に換算すると

  • エッフェル塔の下を飛行機でくぐり抜ける賞金として18億2293万2491円
  • 財宝を発見する前、カジノで賭けたなけなしの金額が、2万5521円
  • 財宝が364億5864万9815円
  • 財宝発見後に、ドロンがカジノで平然と賭けた金額が7万2917円
もちろん、1960年代の物価と現在の物価は違います。
今の貨幣価値に直すと、上の金額を数倍~10倍したものになるのではないでしょうか?
(当時の日本の大卒初任給で2万円程度。週刊誌が50円程度)

死人が出るくらいの金額だというのも納得できますし、島を買い取ることができるわけです。

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